勘助は二十四日、領民と周辺の名主達を呼んで、猪が増えだした状況を彼等からも聞いてみた。
「聞けば聞くほど、必要じゃな。」
勘助はそう判断した。彼等ももっと良い対策を求めていた。
「狼煙台を各村に作った事で、領内外を越えた連携が出来るようになった。これは他国にはない優れた事じゃ。しかし、狼煙台の役目は、もう一つあってこそ、本当の意義のあるものになる。」
名主の一人が、
「もう一つとは?」
と尋ねた。勘助は一言で答えた。
「狼がいる事在じゃ!」
村長や名主達は、ざわめいた。話がよく掴めていないからだ。勘助は説明する。
「猪の天敵は狼じゃ。だから狼をワシの山師で捕まえて、猪の被害の多い山から放つ!」
これが奥の手であり、猪駆除に最も友好的な条件であった。
しかし、名主・村長達は反発する。
「狼は人も食らう!」
「そうじゃ。危ない!」
「犬のように、人の言う事聞かないし。」
「それより我等で出来る、他の方法を教えて下さい!」
予想通り、彼等は勘助に対して、クレームと注文を殺到させた。
だが、一人の長老が勘助の案には理に叶ってると主張する。
「ここも十年くらい前までは、確かに狼も沢山いた。じゃが、やはり人を食らう事件も耐えないから、男共で徹底して狩をして、この辺の狼を完全に消したのじゃ。その二・三年後じゃろうか、やたらと猪が増えたのは。」
狼という天敵がいないから、猪が異常繁殖するパターンだ。つまり、自然界の食物連鎖のバランスが、ここでは崩れているのだ。
勘助の提案は、それを回復させるというのが基本である。
「狼は農作物を食い荒らさない。人を襲っても、狼煙台はいわば『逃げ場』になれるのじゃ。逃げる目印としても分かりやすいし、狼が追いかければ、上から矢や石で人を守って対抗もできる。それに、狼煙は狼の糞がないといい煙が出ない。それが少ないと、他の村への連絡もやりにくくなる。」
実際、そういう問題も指摘されている。周辺に狼がいないから、そのフンを探しに行くのに、山奥に入らなければならないという、並ならぬ苦労を強いられるのだ。
少ないとケチるから、他村への連絡ミスが出るのだ。狼の開放はその解消にもなる。
長老は言った。
「狼を放つなら、我等村人も境を越えた連携がもっと必要になるんじゃな。村が違うとか言って、あれこれ差別するのは止めねば。」
人間の都合で近隣の狼を駆除し、人間の都合で回復させる。皮肉といえばそれまでだ。
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2008年05月09日
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久良岐 満

