こうして和睦の基礎部分が、武田・小笠原の両家で成立した。
翌二十二日からは、細かい部分の調整である。この日に甘利隊の荒神山撤退が二十五日に決まる。
そして、勘助達の先発隊が未明から甲府に向けて出陣し、途中の瀬沢に諫早佐五郎を置いて、堤防修理の再開を促させ、夕刻に小淵沢の笹尾砦に到着して、小笠原の検視は満足して、上原城に引き返し、二十三日に府中の長時に、役目無事終了の報告をした。
先発隊は韮崎で解散し、勘助隊は当然その前の蔵原で解散している。
久しぶりに蔵原の屋敷に入り、甲冑を脱ぐ勘助に、留守を預かる山師が、ある重大な報告をする。
「減ったかと思った猪が、再び増えてるようです。」
それに勘助は、自分がいない間の怠慢とは決して考えない。むしろ、
「…やはりな。猪相手では、人間様がどんなに頑張っても限界がある。」
素直に認めたのだ。何故なら猪は、メス一頭でも一年間で四頭も産むだけの繁殖能力があるからだ。
だから、人間がどんな英知を持って駆除しても、ある一つの条件が欠けてる限り、増殖の一途を辿るのは何処の地域も変わらない。
だから、山師は提案する。
「もはや、奥の手を使うしかないと思いますが…。」
この山師の提案に、勘助は考える。
「確かにそうじゃが、領民がそれについて行けるかのう?周辺の民の理解もさせないといけないし…。」
「ついて来てくれねば困ります。そのための狼煙台です!」
「そうだよな。明日にでも村長や名主達を集めて、ワシから話そう。」
勘助は決意した。合戦が終っても休む暇が無い。五十も過ぎた老人なのに、普段から体力を鍛えていたのだ唯一の救いか…。
「しかし、肩が凝る…。」
猪が増えれば、その肉はそれなりに飢饉対策になれる。しかし、人間の生活を脅かすまでになった以上は、見逃せない。
彼等の作った生産物は、勘助のような為政者にとって、唯一の収入源だからだ。そんな税収源はちゃんと守らないと、自分にとっても死活問題なのだ。
そうなれば、合戦や築城どころではない。
「今年は百貫まで回復しても、来年からは又減ってしまう。それではいかん!」
勘助の収入は本来二百貫だ。それだけの土地を貰ってるのだ。しかし実際はその半分しか取れていない。とはいえ仕官前は『猪飢渇(いのししけかじ)』のせいで、空前のゼロ収入になったことのある土地なのだ。
「それだけは、絶対に嫌だ。」
そう呟きながら、勘助は休む暇も無く明日に備えた。
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2008年05月08日
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久良岐 満

