だが、これに長時は返す。
「連中は信濃の勢力だ。姻戚も先祖代々根が深く信用もある。しかし諏訪は姻戚を、頼重の側室小見氏しか受け入れず、信濃との血のつながりが非情に薄い。それにそなたら武田は余所者だ。姻戚も何もない。」
「武田と小笠原は、先祖を辿れば全く同じ甲斐源氏です。」
「しかし、支援はわが方ばかりで、そちらからの見返りは、何も無いではないか。」
これは過去の難しい因縁の問題である。
甲斐守護武田家は、今から約一世紀半前の上杉禅秀の乱で、一度滅亡している。
しかし、武田の残党勢力等や足利幕府の尽力で復活したが、それに最も貢献したのがこの小笠原家である。
武田復興のための経済支援と守護代として家臣の跡部氏を派遣させたから、小笠原は武田の兄貴分だと言う意識が根強くあるのだ。
しかし信昌(晴信の曽祖父)は、その跡部氏を専横を名目に滅ぼした。
以来、両家の関係が険悪になるが、それも時間の経過と共に浄化されたかに見えた。
しかし、ここで取りざたされた。
「現状の修復に、そんな大昔の事まで持ち出さないで戴きたい!」
信方は反論を強くした。過去まで取り上げ、交渉を複雑化したら、長時にその気はなくても、相手なら誰でも決裂の為の交渉だと判断してしまう。
(あれは喧嘩を売りたいのか、成る程信濃がまとまらない訳だ…。)
信方は想定していた事だが、我慢した。しかし長時は関係なく攻めたてる。
「どうしても嫌と言うなら、我等としては身代わりを求めるが、どうじゃ?」
長時が求める『身代わり』なんて、そんなの読めてる。信方は正直嫌である。何故なら自分の諏訪郡代としての権益に、直接関わる事だからだ。
(しかし、高白斎は絶対に捨てられん。奴は要害山城を守る城代じゃ。武田にとっては甲府決戦の時の、最も要になる男じゃ!)
こうなれば、権益の一部を渡すしかないと信方は決意する。
「ならば、小県郡にある武田領、すなわち長窪・望月の守護権を、小笠原様にお返し申そう…。」
これに長時は、ニコッと上機嫌になる。
「ふむ、分かれば良いのじゃ。」
小県郡は、その滅びた跡部氏の故郷でもある。長時の戦略は当たった。
(これで色々干渉し、今度は土地も頂く!)
長時は頭の中で舌なめずりした。信方にとっては、土地は安堵しても政治的には二重支配された気分になり、気持ちが悪い。
(しかし、予想はしていた事。高白斎を守る為、それに武田の信濃一和のためなら、守護権をくれてやって油断させるのも悪くない。)
そう言い聞かせながら、信方は長時に条件を出した。
「ならば、駒井高白斎の隠居は撤回ですな。」
これに長時は不機嫌そうに目を細める。
「な、なんじゃと!」
「蟄居は約束通りさせましょう。その代わりに隠居撤回です。ですが、高白斎は今後いかなる理由があっても、この信濃には絶対に入れない。誓書も書かせてそちらに送ります。これでよろしいでしょう!」
それならばと、長時は仕方なく納得した。
| ●●● お知らせ |
|
物語を読む上で、結構重要なベースになりますので、是非ご一見ください! |
2008年05月06日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/95848356
この記事へのトラックバック
http://blog.seesaa.jp/tb/95848356
この記事へのトラックバック

久良岐 満

