福与城に来た信濃守護小笠原長時の使者、二木豊後守重高に和睦を命じられて、さすがの頼親も怒りに震える。
「和睦とは何事ぞ!せめて休戦にしてくれ!」
和睦は色々と政治条件の駆け引きがあるが、休戦ならそれはない。ただいつかは再戦をすると言う、五分五分の状況に戻すだけだ。
そのため、頼親が最も懸念するのが、諏訪頼継の引渡しである。
二木豊後は動じない。
「仕方あるまい。撤退を条件に出した以上、追撃を許さないのは道理。我が御館様は信濃守護としてそなたを守ってるのじゃ。」
和睦は五分と五分で決着を着けるのが、武田と小笠原の方針だと言いたげだ。
しかし直接喧嘩をしてるのは、武田と小笠原ではなく、武田と伊那連合国だ。
「後詰は、いかがなされる!」
頼継は尋ねた。
「その方向で行くつもりじゃ。」
「つもりでは困る。約束は後詰の確約でしたぞ。分かっておろう!」
「それは存じている。だから、そのつもりで交渉してるのじゃ。」
重高はそう言って、信濃府中へと戻った。高白斎軍の追撃は許さない。重高は検分の家臣を置いて福与を出た。
十六日、高白斎は砦の破棄を全軍に命じ、特に丸馬出しは徹底的に破壊させた。
勘助は少し未練だ。
「せっかく作ったのに…。」
分かってはいたが仕方無い。和睦条件に組み込ませるための、使い捨ての砦なのだから。
こうして夕刻に陣を引き払い、夜には荒神山砦を包囲する甘利隊に合流した。
しかし、小笠原の検分役が、文句を言いに虎泰と高白斎の入る本陣に来た。
「約束では、今日中に諏訪郡に入るはずじゃ。何故先に進まない!」
これに高白斎は答えた。
「いやいや、大目に見てくだされ、検視殿。なにせこの老いぼれが総大将を務める軍勢じゃからのう。今日はもう疲れたわい。」
「それでは約束にならん!」
「明日には動く。甲府にはちゃんと戻る。じゃから安心いたせ。」
「ならばその怠慢、我が守護に報告するぞ!」
「お役目ご苦労です。」
検視は、怒りながら去っていった。虎泰はこのやりとりを見て、笑いを堪えるのに必死だった。検視が帰って笑い出した。
「わははは!この老いぼれめ、板垣殿を困らせおって!」
「そなたも同世代じゃろうに。」
「まあ良いか。板垣殿なら上手くやるじゃろう。」
「それより、我が軍の穴山様と今井殿の部隊は、そなたに任せるぞ。」
高白斎は意外な答えを返した。
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2008年05月05日
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久良岐 満

