誰もが喜び叫んだ。
それは夜でも、志賀城にざわめきが聞こえる程だ。
三の郭を占拠している部隊からも、自慢たっぷりに大声で志賀城に教える。
「やい、上州勢は破れて、尻尾を巻いて逃げたぞ。ザマを見ろ!」
「ワハハハハ!」
それを聞いた笠原清繁と高田憲頼。
焦りをあらわにしながら重臣たちを集め、本郭で軍議を開いた。佐奈姫や佳織も来ていた。
「どうする?」
「どうする?」
と誰もが悩む。
しかし憲頼は、
「う、嘘じゃ。味方は二万人じゃぞ。それで負けるわけが無い!」
と立ちあがり、叫んで信じなかった。
それだけいれば、たとえ上原兵庫みたいな合戦知らずの文官であっても、勝てるはず。そう思った。
しかし兵庫の敵前逃亡(勘助の謀略に引っ掛かった為)と副官近田真孔斎の死は、当然知らされていない。
清繁も信じたくなかった。
「たとえ偏狭の小事と言われても、憲頼殿の言うとおり、二万もの大軍勢で負けるわけが無い。きっとここに来る!」
これに家臣達は、不安ながらも頷いて信じるしかなかった。
家臣達も信じたくなかったからである。
しかし、佳織だけは疑った。
(河越の件があるじゃない。)
それで提案する。
「私、見に行きます。」
しかし、誰もが反対した。
清繁も反対した。
「やり手の山師を城外出しても、殆どが戻らないのじゃぞ。それだけ武田の警戒は強いのじゃ。それでお前みたいな華奢なおなごが見に行っても、報告に帰れる訳が無い。」
そう言われると、佳織も従うしかない。
それに家臣の中には、
「フン、逃げて降伏する気じゃろう!」
等と吐き捨てる。佳織も当然怒る。
「逃げません!なんで降伏しないといけないのですか!」
そう強く反論して、黙らせた。
軍議の雰囲気は、援軍が負けたなど信じたくないという事で一杯になっている。
しかし佳織は、そんな雰囲気は、非常に気味が悪くて嫌だ。
(これじゃ妄想よ。負けた訳が無いって、確かな情報が何も無いのに、敵に支配される前に妄想に支配されたら、大変な事になるわ!)
強行なまでに籠城する側に、えてしてあり得る事だ。
これも姫時代に、勘助が修行時代の話やよもやま話で語った事でもある。
やはり確かめるしかないのか、佳織は悩んだ。
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