御代田から湯川沿いに逃げる多田隊。追いかける金井衆。
御代田の南西、甘利隊のいる小田井の崖上では、旗を藪の中に隠し、崖下からやってくる多田隊や金井勢に見えないように、身を潜ませている。
多田隊は、その小田井から左右二手に割れた。一隊は三八の副将が先頭になって、西の濁川を目指す。
もう一隊は佐五郎と庄左衛門の部隊だ。これは湯川をそのまま東に下っている。
上原兵庫がいなくなり、近田真孔斎が殺されて指揮系統が麻痺し、多田隊の小さな奇襲だけで逃げ出した上原衆も、次第に落ち着きを取り戻すが、自分達の総大将がいない。状況判断が分からない。
だからしばらく持ち場を固めて、身動きも取れない。
金井の使者が上原衆にやって来て、景秀の指揮下に入れときつく言われて、従うしかなかった。
一部始終は勘助が見ている。
「信方殿に報告!」
と、敵本陣の動きがある度に、忍びや山師を使って、その都度情報を送ってる。
その情報を受ける信方も、指揮がこれまでになく、やり易い。
これに信方は、
「山本勘助と言う男、さすがは元今川氏輝の軍師。すごい…。」
と思わず呟き、敵本陣の様子など全く見えないのに、手に取るように分かってしまうという、勘助の情報能力の素晴らしさに圧倒してしまう。
今日までに五十以上の合戦を体験してきた百戦錬磨の信方である。情報能力の大切さはよく分かっていたし、そのために忍びも持っているのだが、勘助の場合は、まるで自分の両眼か手足のように使っている。
だから、出す命令も思わず勘助に乗せられているようだ。そんな気すらした。
「信里隊と保科隊には、ちゃんと頑張ってもらわないとな…。」
この合戦のキーは、この二部隊である。
信里隊は、多田三八(と副将)の逃げ道の崖の両上にいて、保科隊も佐五郎らの逃げ道の左右の崖上で待機している。
共に二百丁もの火縄銃を部隊化しての待機であった。
そして、逃げる両部隊は、信里の隊と保科昌俊の隊の待機する場所まで来た。
これに信里が軍配をかざし、
「よし今だ、放てーっ!」
と鉄砲隊は一斉に砲撃を開始した。
同じ頃、昌俊も、
「頃合いじゃ、放てーっ!」
と一斉射撃を命じた。
【第21章「小田井原合戦」(了)の最新記事】






