一年以上も帰らないのなら、死んだと同じだ。
ハルは、雪之進が山百合を思っているのは知っていた。でも、片思いだった。
山百合の頭の中には、未だに勘助だ。既に死んだ男を未だに思い続ける所はハルと同じかもしれない。
しかし、山百合は戸惑う。
「そんな、福島でいいではありませんか?」
「都合が悪いんじゃよ。奥に入るには、余所者じゃ駄目なんだ。新参でも、芹ヶ谷の方が都合がいい。」
そう説得された。それに話はその線でもう進んでいる。変更は効かない。
ハルは山百合の肩をポンと軽く叩く。
「何時でも会えるけど、ま、一応お別れだ。長屋も向こうが用意してくれたし、明日からは芹ヶ谷山百合で頑張ってくれや。」
そう言われて、ハルが去っていった。
何時も自分の知らない所で話が進む。でも逆らえないし、武士の女に戻れるのだ。
でも山百合は福島佳織という大国今川家の重臣で、かつ国人領主の娘なのだし、それが足軽の女房という設定にされたのだ。
喜べるわけがない。
でも、雪之進は嫌いじゃない。同世代だったし、友人みたいな感覚で接していた。
山百合はすぐに荷物をまとめて、翌日にはハルの屋敷を出て行った。
とはいえ、山百合の新しい長屋は同じ城下である。距離も商人通りと武家屋敷郡の差でしかないから、めっぽう近い。
だから引越しも、ミトイやホノミ、赤霧・松霧・桜霧も一緒に手伝ってくれた。
しかし荷物は多くないし、直ぐに片付いてしまった。
「有難うね、みんな。」
山百合は感謝した。
「山百合さんがいないと寂しいよ。」
などと言われるが、
「そんな、何時だって遊びにおいでよ。近いんだから。」
身分は違えど、一緒に生きてきた仲間である。武将の娘だった山百合も、なんだかそんな武家のプライドがなくなっている。
山百合の笠原屋敷入りは五月九日である。台所での雑用から始まるが、その前に清繁と妻のいる場所まで案内されて、挨拶する。
「芹ヶ谷山百合です…。」
清繁はなにげなく、
「表を上げよ。」
と言って山百合の顔を見た。正直一目ぼれした。思わず心の臓が止まるかのような、目が覚める程の美人だ。目の前に美人の妻がいるのに…。
妻もそれには敏感に察知したようだ。
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