その一通の手紙から、武田家の諏訪支配が狂って、上伊那侵攻の一因にまで発展したというあの事件である。
勘助は麻美を落ち着かせる。
「先ずは気を静めろ。」
「は、はい…。」
深呼吸をして、何とか落ち着かせる。そして勘助は麻美に目線を合わせて、丁寧に話す。
「良いか、やって欲しい事がひとつある。」
「はい…。」
「肉筆じゃ。信里殿が書いた手紙を、何としてでも手に入れるのじゃ。」
まさか譜代衆筆頭だった板垣信方の嫡男に疑いの目が向けられるとは、誰も考えられなかった。
もしかしたら、麻美の聞き間違いかもしれないのだ。でも勘助は、信じる信じない以前に、この迷宮入りされた問題を解決させないと、今後の武田家の為にもならないし、桜湖や虎王丸の人生の歯車を大きく狂わせた事件でもあるのだ。修正の為には解決が必要だ。
「盗むもよし、書かせるもよし、手段は任せる。急いで欲しいが焦る必要は無い。兎に角穏便に、確実に、板垣殿に感づかれないようにするのじゃ。字数は多いほどいい。」
「わ、分かりました。」
「分かったらその手紙を鳩の足に結んで飛ばせ。うちの葉子から北の方(三条)様に直接行くようになってるから。秘密を送るには、早いし都合もいい。」
「はい!」
勘助は上原で自分の宿所にしてる小寺に麻美を連れて行き、その鳥かごに入ってる鳩を鳥かごごと渡した。
勿論甲府行き、つまり甲府の山本屋敷で生まれた鳩だ。秋津がここの坊主に頼んで、育てていたものだ。
麻美は勘助に質問する。
「あ、あの、長坂様にこの事を言ってもいいですか?」
「どうしてじゃ?」
「手紙、持ってそうですから…。」
勘助は、成る程と思った。文官の虎房なら色んな資料を持っている。その中に信里の書いた、何らかのものがあるに違いないと。
そして何より、信里に接する必要が無いから、極秘行動をとりやすいし、焦る気持ちも解消が出来る。
「分かった。しかし、長坂殿だけじゃぞ!」
「はい!」
「ま、ワシとしては、取り越し苦労であって貰いたいものじゃがな…。」
「…。」
勘助は上原での用件を済ますと、馬に乗って再び前山城に向けて走らせた。
譜代だから疑わないというのが常識の世界である。しかし譜代だからこそ疑うのが、戦国乱世で生き残る道でもある。
どちらに転ぶか、まだ分からない。
| ●●● お知らせ |
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これは戦国武将小笠原長時が愛した「小笠原牡丹」です。 5月中旬が見ごろ!純白がとても綺麗な花です♪ 16日にこれを写メしに、松本まで行きました。 |
2009年11月07日
2009年11月06日
品第1315:二代目諏訪郡代長坂虎房(第27章5節「小笠原長時の野望」5)
麻美は暫く板垣屋敷に厄介になる。無論桜湖というよりも三条夫人に情報を送る為だ。
奥としては奥なりに情報を確保するのだ。
この時の勘助のやることも、多忙であったが、以外にも一番大事というか意外な情報は、麻美が仕入れることになるのだ。
勘助と麻美は、虎房に会う。虎房は麻美をよく知っている。長房は勘助に晴信から手紙が来た事を教える。
「見てくれ。」
虎房は手渡す。勘助は確認する。
「これは、おめでとうございます。」
虎房が正式に諏訪郡代に決まった件だ。虎房は喜んでいいのか、苦笑いだ。
「いや、臨時の色が強いから、次に郡代をやる者のための、いわば橋渡しがワシの役目じゃよ。直ぐに甲府に戻されるさ。」
とはいえやることは多い。それに村上の襲撃を意識しないとならない。虎房は呟く。
「出来れば多田三八殿と原虎胤殿を、急いで戻して欲しいのじゃがのう…。」
事務的な事は得意だが、警察的な事はやはり彼らみたいな武断派の力がいる。
多田三八は信方の副将として活躍する勇者であり、原虎胤は有賀城代だ。勘助は晴信に伝えるとして、自ら早馬を買って出た。
そしてこの時、大和(おわ)城の板垣信里が怒り心頭な表情丸出しでやってきた。
「何故長坂殿が、諏訪郡代なのじゃ!」
と怒鳴り込む。虎房も言い返す。
「御館様の命じゃ、仕方なかろう。」
「フン、海尻城の戦いでションベンたらして逃げて、父上に迷惑をかけたくせに!」
「大昔の話をほじくっても、郡代になったのは何もワシのせいじゃない。」
「いいや、きっと裏金じゃ。貴様は代官やってる時も、何時もカネで決着をつけるという、もっぱらの噂じゃしな!」
ズケズケと言いたい放題だ。しかしその様子を見ている麻美は、まるで蒼ざめたかのように、小さな下あごがガクガクと震えてる。
側にいる勘助が、小声で心配した。
「どうした、風邪か?」
麻美はびっくりしたかのように勘助のほうを向く。そして麻美は勘助の腕を引っ張って、この場から抜け出し、別紙綱で引っ張って震える理由を打ち明けた。
「あの声と、同じなのです…。」
「あの声って?」
「二年前、諏訪嶺雲様が姫様(桜湖)宛の手紙を持ってきた、あの虚無僧の声に…。」
「な、何じゃと!」
「よく見ると、体つきもなんとなく…。」
「似てると?」
「はい、よく似てます。」
こんなクソ忙しい時に関して、一難去ってまた一難みたいな問題が振って出たのだ。
奥としては奥なりに情報を確保するのだ。
この時の勘助のやることも、多忙であったが、以外にも一番大事というか意外な情報は、麻美が仕入れることになるのだ。
勘助と麻美は、虎房に会う。虎房は麻美をよく知っている。長房は勘助に晴信から手紙が来た事を教える。
「見てくれ。」
虎房は手渡す。勘助は確認する。
「これは、おめでとうございます。」
虎房が正式に諏訪郡代に決まった件だ。虎房は喜んでいいのか、苦笑いだ。
「いや、臨時の色が強いから、次に郡代をやる者のための、いわば橋渡しがワシの役目じゃよ。直ぐに甲府に戻されるさ。」
とはいえやることは多い。それに村上の襲撃を意識しないとならない。虎房は呟く。
「出来れば多田三八殿と原虎胤殿を、急いで戻して欲しいのじゃがのう…。」
事務的な事は得意だが、警察的な事はやはり彼らみたいな武断派の力がいる。
多田三八は信方の副将として活躍する勇者であり、原虎胤は有賀城代だ。勘助は晴信に伝えるとして、自ら早馬を買って出た。
そしてこの時、大和(おわ)城の板垣信里が怒り心頭な表情丸出しでやってきた。
「何故長坂殿が、諏訪郡代なのじゃ!」
と怒鳴り込む。虎房も言い返す。
「御館様の命じゃ、仕方なかろう。」
「フン、海尻城の戦いでションベンたらして逃げて、父上に迷惑をかけたくせに!」
「大昔の話をほじくっても、郡代になったのは何もワシのせいじゃない。」
「いいや、きっと裏金じゃ。貴様は代官やってる時も、何時もカネで決着をつけるという、もっぱらの噂じゃしな!」
ズケズケと言いたい放題だ。しかしその様子を見ている麻美は、まるで蒼ざめたかのように、小さな下あごがガクガクと震えてる。
側にいる勘助が、小声で心配した。
「どうした、風邪か?」
麻美はびっくりしたかのように勘助のほうを向く。そして麻美は勘助の腕を引っ張って、この場から抜け出し、別紙綱で引っ張って震える理由を打ち明けた。
「あの声と、同じなのです…。」
「あの声って?」
「二年前、諏訪嶺雲様が姫様(桜湖)宛の手紙を持ってきた、あの虚無僧の声に…。」
「な、何じゃと!」
「よく見ると、体つきもなんとなく…。」
「似てると?」
「はい、よく似てます。」
こんなクソ忙しい時に関して、一難去ってまた一難みたいな問題が振って出たのだ。
2009年11月05日
品第1314:秋津の鳩(第27章5節「小笠原長時の野望」4)
そこには鳩が十羽いる。葉子は説明する。
「ずっと育ててるのですよ。」
勘助はジッと鳩を眺める。
それぞれの足には、手作りの皮製のプレートがある。そしてその鳩が行ける場所が書いてある。
その中に二匹、上原に行ける鳩を見つけ、ため息下とたん、勘助は急に嬉しくなった。
「なんだ。最初からこうしておけば良かったわい!」
これに葉子も、にこっとして。
「そうですよ。急ぎの知らせは、鳩さんにお任せなさいよ。」
正直忘れてた。というかこれまで勘助は使った事が無い情報手段であった。
鳩を使う。これは秋津が遠距離に手紙を素早く送る際に使っている手段だ。
上原と書いてある鳩は、上原で拾って育ててる鳩だ。だから使える。
他には駿河吉原に二匹、周防防府・山口にそれぞれ三匹いた。
勘助は屋敷の縁側で、長坂虎房宛に手紙を書いて、鳩の足にくくりつけて大空に放した。
鳩は一気に西に向けて飛び出した。
「よし!」
これで麻美と一緒に行けるようになった。そう葉子は判断し、勘助に勧めた。
「そうか、そうじゃな。」
と納得した。こうして勘助と彩子は、一緒に諏訪上原に向けて歩いて甲府を出発した。
諏訪郡大和(おわ)城。上諏訪と下諏訪の中間地点にある尾根先の山城だ。
本丸から目の前に広がる諏訪湖は、絶景である。南には辺鄙な平山城である高島城を見え、北には二つの大きな諏訪大社下社(春宮と秋宮)とその門前町が一望できる。
そこに板垣信里は、警備を勤める。しかし集中できない。
(ええい長坂め、ワシの役(諏訪郡代)を横取りしやがって…!)
この役職を、板垣家の世襲と思い込んでしまっている信里は、短気になっている。
前山城の武田晴信は、この時正式に諏訪郡代を決定させた。
「暫くは、長坂虎房が良かろう。」
晴信は祐筆に三枚、この内容を書かせる。宛先は躑躅ヶ崎館・上原城、そして信濃府中の小笠原屋敷である。
晴信は花押を記し、早馬で送った。
秋津の鳩は、直ぐに板垣屋敷に着いた。それを長坂虎房が確認する。
「三月になれば、村上と和睦を図る、か…。」
理由は農繁期に入るからだ。
つまり、諏訪勢が帰ってくる。負傷兵もまとめてだ。準備をしろと言う意味である。
勘助と麻美が上原の板垣屋敷に着いたのは、翌二十四日の昼である。
「ずっと育ててるのですよ。」
勘助はジッと鳩を眺める。
それぞれの足には、手作りの皮製のプレートがある。そしてその鳩が行ける場所が書いてある。
その中に二匹、上原に行ける鳩を見つけ、ため息下とたん、勘助は急に嬉しくなった。
「なんだ。最初からこうしておけば良かったわい!」
これに葉子も、にこっとして。
「そうですよ。急ぎの知らせは、鳩さんにお任せなさいよ。」
正直忘れてた。というかこれまで勘助は使った事が無い情報手段であった。
鳩を使う。これは秋津が遠距離に手紙を素早く送る際に使っている手段だ。
上原と書いてある鳩は、上原で拾って育ててる鳩だ。だから使える。
他には駿河吉原に二匹、周防防府・山口にそれぞれ三匹いた。
勘助は屋敷の縁側で、長坂虎房宛に手紙を書いて、鳩の足にくくりつけて大空に放した。
鳩は一気に西に向けて飛び出した。
「よし!」
これで麻美と一緒に行けるようになった。そう葉子は判断し、勘助に勧めた。
「そうか、そうじゃな。」
と納得した。こうして勘助と彩子は、一緒に諏訪上原に向けて歩いて甲府を出発した。
諏訪郡大和(おわ)城。上諏訪と下諏訪の中間地点にある尾根先の山城だ。
本丸から目の前に広がる諏訪湖は、絶景である。南には辺鄙な平山城である高島城を見え、北には二つの大きな諏訪大社下社(春宮と秋宮)とその門前町が一望できる。
そこに板垣信里は、警備を勤める。しかし集中できない。
(ええい長坂め、ワシの役(諏訪郡代)を横取りしやがって…!)
この役職を、板垣家の世襲と思い込んでしまっている信里は、短気になっている。
前山城の武田晴信は、この時正式に諏訪郡代を決定させた。
「暫くは、長坂虎房が良かろう。」
晴信は祐筆に三枚、この内容を書かせる。宛先は躑躅ヶ崎館・上原城、そして信濃府中の小笠原屋敷である。
晴信は花押を記し、早馬で送った。
秋津の鳩は、直ぐに板垣屋敷に着いた。それを長坂虎房が確認する。
「三月になれば、村上と和睦を図る、か…。」
理由は農繁期に入るからだ。
つまり、諏訪勢が帰ってくる。負傷兵もまとめてだ。準備をしろと言う意味である。
勘助と麻美が上原の板垣屋敷に着いたのは、翌二十四日の昼である。
2009年11月04日
品第1313:情報を制する者(第27章5節「小笠原長時の野望」3)
佐久郡では未だに武田軍と村上軍の対峙が続いていて、戦闘らしいものは一切行われていない。しかし、村上軍による周辺の村々の乱捕りは行われている。
だから乱捕り防止のための、禁制購入をする村も相変わらず出てくる。
禁制を貰うという事は、その村は村上に従うという意味だ。
これまで武田に従ってきた村が、減ってしまうのである。
この日の夜には、勘助は海ノ口で小畠虎盛に状況を教え、その後甲府に向かう。
海ノ口は、信濃から甲斐に入れない行商などで一杯だ。諦めて帰るものも断たない。
この状況は蔵原でも同じだ。野宿させられる者があちこちにいる。戒厳が上手く言ってる証拠だが、もうすぐ噂は甲府盆地にやってくるであろう。
村上が雇う戸隠ノの忍びは、勘助の山師同様山道には滅法強いからだ。
走行してる間に、二十二日に日が変わった頃、勘助は甲府に到着して、駒井高白斎にこれまでの様子を話した。
でも、あの御柱の件は話さない。
そして勘助は、ようやく甲府の自分の屋敷に着いた時、玄関前でバタリト倒れて、そのまま寝入ってしまった。
妻葉子が慌てる。
「そ、そ、そんなところで寝たら、風邪ひきますよ!」
これまで馬を走らせっぱなしである。尻も痛いし、横になったら最後、立ちたくない。
既に暴睡中の勘助を引っ張って、寝所まで運ぶのが大変な葉子であった。
二十三日朝、勘助はパッと目が覚める。葉子は既に朝食を用意していた。
勘助はガツガツ食べてる時、葉子は話す。
「これからどうされるのですか?」
「上原に行く。」
「ならば丁度いいわ。」
「ん?」
「麻美さんが今日、諏訪に用事で行きますから、一緒に行ってやってください。」
麻美は葉子や横吹彩子と同じ、諏訪桜湖付きの侍女である。
パニック障害になって、今は治療中の桜湖だが、それでも武田家では桜湖が諏訪の代表者だ。状況を把握していないとならない。
その為、様子を伺いに麻美が躑躅ヶ崎の女子を代表して行くのだ。しかし勘助は渋る。
「出来れば、急ぎたいのう…。」
女子が一緒では、急げない。
なので断った。勘助は屋敷に出る時、庭を眺める。そこには秋津が以前作って置いていった鳩の巣があった。
だから乱捕り防止のための、禁制購入をする村も相変わらず出てくる。
禁制を貰うという事は、その村は村上に従うという意味だ。
これまで武田に従ってきた村が、減ってしまうのである。
この日の夜には、勘助は海ノ口で小畠虎盛に状況を教え、その後甲府に向かう。
海ノ口は、信濃から甲斐に入れない行商などで一杯だ。諦めて帰るものも断たない。
この状況は蔵原でも同じだ。野宿させられる者があちこちにいる。戒厳が上手く言ってる証拠だが、もうすぐ噂は甲府盆地にやってくるであろう。
村上が雇う戸隠ノの忍びは、勘助の山師同様山道には滅法強いからだ。
走行してる間に、二十二日に日が変わった頃、勘助は甲府に到着して、駒井高白斎にこれまでの様子を話した。
でも、あの御柱の件は話さない。
そして勘助は、ようやく甲府の自分の屋敷に着いた時、玄関前でバタリト倒れて、そのまま寝入ってしまった。
妻葉子が慌てる。
「そ、そ、そんなところで寝たら、風邪ひきますよ!」
これまで馬を走らせっぱなしである。尻も痛いし、横になったら最後、立ちたくない。
既に暴睡中の勘助を引っ張って、寝所まで運ぶのが大変な葉子であった。
二十三日朝、勘助はパッと目が覚める。葉子は既に朝食を用意していた。
勘助はガツガツ食べてる時、葉子は話す。
「これからどうされるのですか?」
「上原に行く。」
「ならば丁度いいわ。」
「ん?」
「麻美さんが今日、諏訪に用事で行きますから、一緒に行ってやってください。」
麻美は葉子や横吹彩子と同じ、諏訪桜湖付きの侍女である。
パニック障害になって、今は治療中の桜湖だが、それでも武田家では桜湖が諏訪の代表者だ。状況を把握していないとならない。
その為、様子を伺いに麻美が躑躅ヶ崎の女子を代表して行くのだ。しかし勘助は渋る。
「出来れば、急ぎたいのう…。」
女子が一緒では、急げない。
なので断った。勘助は屋敷に出る時、庭を眺める。そこには秋津が以前作って置いていった鳩の巣があった。
2009年11月03日
品第1312:勘助大忙し(第27章5節「小笠原長時の野望」2)
勘助は上原城の板垣屋敷に着いたのは、二月二十日に入ろうとしていた。
虎房が出迎える。
「どうだった?」
それに勘助は一言、
「上々じゃ!」
と返した。それで充分通用した。
だからこれから後は、長房と長時でやりとりすればいい。
しかし勘助は、一番大事な事を、あえて教えなかった。
そして勘助は馬を乗り換えて、前山城に向けて走らせる。疲れてるはずなのに、勘助はこの辺の情報の手際の良さが、一番重要なのは分かってるので、疲れてるなどと思ってる暇がない。
二十一日の昼、勘助は前山城に着いていた。常識では考えられないくらいの、恐ろしいまでの素早さだ。
勘助は汗だくのまま、息を切らしながらでも、未だ立てないで看病されてはいるが、元気は取り戻した晴信に面会した。
「どうした勘助。ワシよりも傷が痛そうな顔じゃないか。」
笑ってはいけないのは分かってるが、少々おかしかった。でも勘助は、晴信が元気と分かればそれでも構わない。
「いや、少々走りすぎました…。」
春日源助が、井戸水を持ってきて、勘助に与えた。勘助はあっという間に飲み「もう一杯」と頼む。
「ちゃんとありますよ。」
源助は飲み水が入った竹筒を、あと三本も持っていた。勘助は三本全部飲み干し、呼吸が落ち着いた。そしてこれまでの詳細を報告し、最後に一番重要な事を教えた。
「小笠原長時は、きっと御柱を襲います!」
晴信にとっては、胃が痛い問題だ。
「して、根拠は?」
「ありません。しかし、勘助の五十数ヶ所の傷跡全てが、そう申しております。」
「おいおい、その場の気分で言ってるのか?」
「某の古傷は、何処の誰よりも率直に物事を悟ります!外れた事などありません。」
「ふん、都合がいいんだな。」
「都合がいいからこそ、こうしてしぶとく死なずに済んでいるのです。」
晴信は正直半信半疑である。信じたくない方向でもある。
「この事、他の誰かには言ったのか?」
「御館様が始めてです。」
勘助の真剣な眼差しに、晴信は悩んだ。御柱祭が襲われる。村上ならほぼ確実やるかもしれないが、小笠原はどっちも考えられる。
「もし小笠原が御柱祭を襲った時、武田はどうすれば良いのか、今から一人で考えておけ。」
と勘助に命じた。これは極秘でないとならない。武田と小笠原、表向きは仲間だからだ。
虎房が出迎える。
「どうだった?」
それに勘助は一言、
「上々じゃ!」
と返した。それで充分通用した。
だからこれから後は、長房と長時でやりとりすればいい。
しかし勘助は、一番大事な事を、あえて教えなかった。
そして勘助は馬を乗り換えて、前山城に向けて走らせる。疲れてるはずなのに、勘助はこの辺の情報の手際の良さが、一番重要なのは分かってるので、疲れてるなどと思ってる暇がない。
二十一日の昼、勘助は前山城に着いていた。常識では考えられないくらいの、恐ろしいまでの素早さだ。
勘助は汗だくのまま、息を切らしながらでも、未だ立てないで看病されてはいるが、元気は取り戻した晴信に面会した。
「どうした勘助。ワシよりも傷が痛そうな顔じゃないか。」
笑ってはいけないのは分かってるが、少々おかしかった。でも勘助は、晴信が元気と分かればそれでも構わない。
「いや、少々走りすぎました…。」
春日源助が、井戸水を持ってきて、勘助に与えた。勘助はあっという間に飲み「もう一杯」と頼む。
「ちゃんとありますよ。」
源助は飲み水が入った竹筒を、あと三本も持っていた。勘助は三本全部飲み干し、呼吸が落ち着いた。そしてこれまでの詳細を報告し、最後に一番重要な事を教えた。
「小笠原長時は、きっと御柱を襲います!」
晴信にとっては、胃が痛い問題だ。
「して、根拠は?」
「ありません。しかし、勘助の五十数ヶ所の傷跡全てが、そう申しております。」
「おいおい、その場の気分で言ってるのか?」
「某の古傷は、何処の誰よりも率直に物事を悟ります!外れた事などありません。」
「ふん、都合がいいんだな。」
「都合がいいからこそ、こうしてしぶとく死なずに済んでいるのです。」
晴信は正直半信半疑である。信じたくない方向でもある。
「この事、他の誰かには言ったのか?」
「御館様が始めてです。」
勘助の真剣な眼差しに、晴信は悩んだ。御柱祭が襲われる。村上ならほぼ確実やるかもしれないが、小笠原はどっちも考えられる。
「もし小笠原が御柱祭を襲った時、武田はどうすれば良いのか、今から一人で考えておけ。」
と勘助に命じた。これは極秘でないとならない。武田と小笠原、表向きは仲間だからだ。
2009年11月02日
品第1311:勘助、信濃府中へ(第27章5節「小笠原長時の野望」1)
勘助は民衆の説得に成功した直後、その足で塩尻峠を越えて、夕刻前までには信濃府中に着くという速さで、小笠原長時に面会を申し込んだ。
長時は直ぐに許可し、主殿で会った。
「久しいのう、しかし、武田殿も大変な事になったのう。戦死したという噂が舞いこんっで来てるが、まことか?」
「いいえ、死んだのは影武者です。御館様は至って無事です。」
影武者を強調した。長時は「やはりな」と頷いて納得した。そして勘助は本題に入る。
「我が武田の戦いぶりは、もはや仕方が無いとして、問題は戦後の処理です。それで小笠原様にはお願いというか、確認したい事があって、やって参りました。」
「ふむ、申せ。」
「御柱祭の件です。村上めは襲うと言い張ってます。それを守護様の力で引き止めて欲しいのです。」
長時は、やはりなと思った。
「それは約束しよう。信濃守護職たる者の名に懸けて、警備の為の軍勢も出して良いぞ。」
信濃守護職を、やたら強調して言う。
長時もここが、信濃守護の大本命たる小笠原家の、守護権格上げのビッグチャンスはここ以外にないと判断しているからだ。
勘助は、そんな自信満々に見せる長時の姿を敏感に感じ取り、妙におかしく思えた。
「寛大な処置、有難き幸せにございます。」
勘助は深く頭を下げた。長時はニヤリとしながら、勘助に言う。
「武田殿に申せ、御柱祭の件は安堵せいと!」
「ははっ、では!」
と勘助は面会を終えて、闇夜の中、大急ぎで馬を走らせて諏訪上原に戻った。
面会を終えた長時の下に、軍師神田将堅が入り込んできた。壁際から聞いていたのだ。
「山本某、馬鹿に素直な男ですな。」
長時は鼻で笑う。
「フン、所詮はしがないボケガエルじゃよ。諏訪家の御柱なら守ってもいいが、武田の御柱なんぞまがい物じゃ。語るに及ばず!」
「左様です。他の祭りとは違い、人やモノの集まり方が半端ではありまあせんから。」
「フン、貴様、ワシに襲えと言わんばかありじゃのう…。」
「諏訪西方衆や藤沢殿保科殿、それに高遠のトンビ(頼継=嶺雲)や『あの男』に調略をかけろと申したのは、御館様ですぞ!」
と将堅は笑う。長時も分かってる。
「所詮は口約束じゃ。」
「御館様も、ワルですのう…。」
「フン、貴様には及ばぬわい!」
二人は大笑いした、まるで御柱祭を襲いますよというようなニュアンスである。しかし決してそのような事は口にしない。
あの男とは一体誰か?この辺の重要な謀略は、長時と将堅の二人だけの極秘である。
長時は直ぐに許可し、主殿で会った。
「久しいのう、しかし、武田殿も大変な事になったのう。戦死したという噂が舞いこんっで来てるが、まことか?」
「いいえ、死んだのは影武者です。御館様は至って無事です。」
影武者を強調した。長時は「やはりな」と頷いて納得した。そして勘助は本題に入る。
「我が武田の戦いぶりは、もはや仕方が無いとして、問題は戦後の処理です。それで小笠原様にはお願いというか、確認したい事があって、やって参りました。」
「ふむ、申せ。」
「御柱祭の件です。村上めは襲うと言い張ってます。それを守護様の力で引き止めて欲しいのです。」
長時は、やはりなと思った。
「それは約束しよう。信濃守護職たる者の名に懸けて、警備の為の軍勢も出して良いぞ。」
信濃守護職を、やたら強調して言う。
長時もここが、信濃守護の大本命たる小笠原家の、守護権格上げのビッグチャンスはここ以外にないと判断しているからだ。
勘助は、そんな自信満々に見せる長時の姿を敏感に感じ取り、妙におかしく思えた。
「寛大な処置、有難き幸せにございます。」
勘助は深く頭を下げた。長時はニヤリとしながら、勘助に言う。
「武田殿に申せ、御柱祭の件は安堵せいと!」
「ははっ、では!」
と勘助は面会を終えて、闇夜の中、大急ぎで馬を走らせて諏訪上原に戻った。
面会を終えた長時の下に、軍師神田将堅が入り込んできた。壁際から聞いていたのだ。
「山本某、馬鹿に素直な男ですな。」
長時は鼻で笑う。
「フン、所詮はしがないボケガエルじゃよ。諏訪家の御柱なら守ってもいいが、武田の御柱なんぞまがい物じゃ。語るに及ばず!」
「左様です。他の祭りとは違い、人やモノの集まり方が半端ではありまあせんから。」
「フン、貴様、ワシに襲えと言わんばかありじゃのう…。」
「諏訪西方衆や藤沢殿保科殿、それに高遠のトンビ(頼継=嶺雲)や『あの男』に調略をかけろと申したのは、御館様ですぞ!」
と将堅は笑う。長時も分かってる。
「所詮は口約束じゃ。」
「御館様も、ワルですのう…。」
「フン、貴様には及ばぬわい!」
二人は大笑いした、まるで御柱祭を襲いますよというようなニュアンスである。しかし決してそのような事は口にしない。
あの男とは一体誰か?この辺の重要な謀略は、長時と将堅の二人だけの極秘である。





